ブックタイトル日本ねじ研究協会 1973年7月

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概要

日本ねじ研究協会 1973年7月

一鱗磯鑓増欝欝小南饗、暖今日は理髪に行く日である。待つことの嫌いな私は,いっも8時の開店に間に合う様に家を出る。今日も予定通りに早々と目的を果し,身心共に清々しい気持で帰途にっいた。時は5月の初め,青葉の目にしみる朝,阪急御影の駅に来ると,六甲登山の人々が色とりどりの服装で歩いている。健康っていいも,こなあと思って歩いているうちに,私の速度は自然に彼等と同じになっていた。ふと前を見ると,前の一群から一人の少年がバヅクして来る。小学校の5~6年頃の年令である。勿論私の知らない少年なのに,私に向って近づいて来る。少「おちさん〃白鶴美術館はどちらですか?1聞いている彼の眼は祈る様な中に,何とも云えぬ力を宿した光を放っている。私の方がハッとなった。私「おちさんも帰り途だから連れて行ってあげよう」2人並んで歩き始めた。私「美術館で何かあるの?」少「今日ね,友達と六甲に登る約束をしたんです。集合場所は第一が阪急梅田駅,第二が阪急御影駅,そして第三が白鶴美術館前なんです。僕第一も第二もおくれて,これが最後なんです」私は少年の話を盟きながら改めて彼を見直し起9軽いリ屯ッ汐を背に,手には水筒を持った軽装,靴は登山靴である。普通よりやせ気味でちょっと顔色も冴えない。私「だったら集合時間は?」*㈱神戸製鋼所取締役・当会副会長少「9時です」私は時計を見た。9時前5分である。駅から私の家迄私の足で7分,家から美術館迄同じ位,この調子ではとても間に合わぬ。しかし彼の最後の望みはどうしても達成させてやりたい。私1これでは間に合わないよ,走れるか?」少「ハイ」二人は走った。弱そうと見えて心配なので走りながら彼の調子に全精神を集中する。始めは鼻でしていた呼吸が段々と口の方へ移り,息が激しくなって来る。私は迷った。少年の目的を達してやるのがよいのか,身体に無理をさせぬ方がよいのか,と。私「もう歩こう」少年は何とも云えぬ眼で私を見上げ,なおも走ろうとする。私「よし,おちさんが先に行って友達に待って貰う様に頼んであげるから,君はこの道に沿って歩いて来いよ」軽い勾配ではあるが,走るとなるとやはり疲れる。ましてサンダルの足では……。振り返ると少年も走っている。しかし距離は段々と離れてゆく。曲り角をすぎると少年の仲間ら.しい子供達が歩いている。美術館の前にも相当集まっている。時計は9時3分,少年は未だ見えない。私は考えた。もし仲間が行動を開始したら待ってくれるよう頼もう,また少年が間に合ったらそれでよし,と。少年の姿が見えた。走るとも歩くとも見える。私は手をあげた。少年の姿が近づく,涙が出て来た。日本ねじ研究協会誌4巻7号一195一